NTT伝送システム研究開発経験者,槇一光のブログ

技術者にお勧めの書籍の最近のブログ記事

日本「再創造」 ― 「プラチナ社会」実現に向けて

小宮山宏著、東洋経済新報社、2011年6月16日発行、定価:本体1,500円+税 ISBN978-4-492-39551-6


この本は、著者がITpro EXPO 2011のキーノート講演で、「省エネは回収できる投資である」と語ったことに触発されて購入した。確かに日本企業は、エアコンや冷蔵庫の省エネ化に開発投資をしてもそれを上回る儲けを出してきた。自動車の排気ガスのクリーン化や燃費の向上も規制があるからそれをクリアするために研究開発投資をしたのだが、それが世界最高水準の品質を生み出し、商売として成り立っている。 


この本ではいろいろなことが指摘されているが、そのひとつがイノベーションの余地とは「理論」と「現実」の差であるということである。理論的に求められる限界に対し現実の製品の省エネがどこまで進んでいるか?その差が大きい製品には今後イノベーションがおこるということで、どの分野にイノベーションの可能性があるかを探るヒントになると感じた。 


DRAMや現行の携帯電話や液晶テレビなど、日本はコモディティ化した製品では国際競争力を失っている。その原因は、製品が生まれて次第にみんながその製品を作れるようになる段階で、世界市場を視野に入れ巨大シェアを取ることを目指して巨大投資を行うことをしてこなかったためであると著者は指摘している。日本国内に複数のメーカがあり製品の種類も多い場合には、製造数量が世界市場とは2桁から3桁小さく価格競争にはならないから勝てないとの指摘である。 


次に取り上げた指摘は、「幸せな加齢の五条件」である。それによると、1栄養、2運動、3人との交流、4新しい概念の受容性、5前向きな思考、の五条件が満たされれば健康に加齢することができるという。日本では70~80歳の高齢者のうち70~80%は健常者であるそうなので、この高齢者パワーを社会で活かすことが必要との指摘だ。 


最後に取り上げる指摘は、日本は第二次世界大戦に負けた後、欧米を目標に懸命に働き1960年代の終わりにはGDPで世界第二位の経済大国になった。この時点で日本の目標は消えてしまったはずだった。欧米にキャッチアップする途上国型の発展モデルから先進国型モデルに移行しなければならなかったにもかかわらず、その転換が行われずに日本は足踏みしてしまった。失われた40年である。先進国型モデルにはお手本がないので、日本は自ら課題を設定し、解決していかなければならないとの指摘である。 


著者が主催するプラチナ社会研究会というサイトがあり、そこには「2050年への政策ビジョン」も掲載されているので、今後の産業の発展の方向性を考える上で、この本とともに参考になると思います。





創発(Emergence)とは、個人の小さな営みが生み出すパワーであり、ジャスミン革命の原動力となったものであると著者は述べている。そして創発的破壊とは、今の日本に求められている静かなるジャスミン革命のパワーであると。

この本の"はじめに"には、「この本は東日本大震災後の日本を想定して書いていたものではない。この数年間、日本はどこへ行くのか、新たなるイノベーションはどこから生まれてくるのかなどについてずっと考え、少しずつ書きためてきたものである。」と書かれている。著者は企業経営の歴史的発展プロセス、特にイノベーションを核とした企業の経営戦略と発展プロセスの専門家であり、日本の今後に関する示唆に富む著作である。 

太平洋戦争の前後で日本の物理的条件は変わっていないのにパラダイム・チェンジが徐々に起こり戦後の発展をもたらした。これまでの、エネルギーは使うだけ供給されるから、需要サイドで使うエネルギーをコントロールする環境に変わっていく中でどのようなパラダイム・チェンジが必要か?それはどのようにしてなされるか? 

私がこの本をお勧めするのは、著者が、今後の日本にはカリスマ的リーダーは必要なく、日本の大衆の静かなるジャスミン革命が必要であると述べている点です。つまりICT技術が今後の日本の方向性を左右できるポテンシャルを持っており、これを大衆が活用できるか否かがポイントとなることです。ICTに係わる技術者自らが小さい提案でよいから一歩を踏み出すことが必要だと思います。


発達障害に気づかない大人たち(職場編)

星野仁彦著、祥伝社新書、2011410日発行、定価:本体780円+税

ISBN978-4-396-11237-0

 

 

この本の帯の裏表紙側には、「あなたの職場のとなりに、いませんか?」と書かれて、以下の六つの特徴の何れかあるいは複数に該当する人はいませんかと問いかけている。

  机の上に書類を積み上げ、いつも何か探している

  仕事の期日の直前になってあわてはじめる

  打ち合わせの時刻に必ず遅れてくる

  お客さん相手に、一方的に自分の意見をまくしたてる

  茶碗を洗っといてと頼んだら、コップは洗わなかった

  夜中まで必要以上に些細な仕事に没頭している

 

これらの特徴に当てはまる人は発達障害がある人あるいはその傾向がある人ということになります。発達障害は、病気ではなくて脳機能の発達に偏りのある脳機能障害で、注意欠陥・多動性障害(ADHD: Attention Deficit Hyperactivity Disorder)やアスペルガー症候群(AS: Asperger Syndrome)や学習障害(LD: Learning Disorders, Learning Disabilities)などの総称です。発達障害がどのようなものであるかはこの本をお読みください。

 

発達障害を持つ人は人口の約6%と言われ、自分自身が気づいていない人もいます。つまり16人に1人の割合でいるわけなので我々の職場にもいる可能性は高いと言えます。この本は、「発達障害に気づかない大人たち」の続編で、職場にいる発達障害を持つ人々にどのような支援をすればお互いに気持ちよく仕事ができるかを具体的に著しています。

 

私がこの本に注目したのは、発達障害であるか否かは別にして、仕事がうまくできない人に対してどのように接すればよいかというノウハウ集である点で、「近頃の若い者は・・・」と言う前にこの本を読むことをお勧めします。若い人で仕事がうまくできない人は、この本をよむことで自分自身を自己分析してみることをお勧めします。



新・武器としてのことば―日本の「言語戦略」を考える

鈴木孝夫著、アートデイズ、2008年10月10日発行、定価:本体1,600円+税

ISBN978-4-86119-118-3


この本は、著者が1985年に出版した『武器としてのことば』を全面改訂したもので、著者の不戦を国是とする日本はことばを武器に世界へむけて情報発信していかなければ鳴らないとの主張が述べられている。折しも福島第一原発の事故の情報が正しく外国のメディアに伝わらないのも、日本文化の中で日本語で考えたものを翻訳しているからだと思われる。著者は、伝える相手の文化的、宗教的バックグラウンドを理解したうえで相手に伝わることばで情報を発信すべきと述べている。 


新・武器としてのことば

世界第三の経済大国である日本が世界に情報発信するための戦略の一つとして、著者は日本語を国連の公用語にすべきと訴えている。国連が発足したときの公用語は、英、仏、露、中、西の五言語で、1973年に中東産油国の石油戦略が発動するやいなやアラビア語も1974年から公用語に加えられ現在に至っている。現在の日本は経済でも技術でも世界に大きな影響力を持っているのだから、国連の公用語に日本語を加えるのは当然のことであり、これに戦略的に取り組まなければいけないと主張している。 


今回の原発事故の報道を見ていても、日本中心の独りよがりな方向で地球市民として放射能情報を世界に向けて正しく発信しているようには見えない。一般に日本では欧米の情報は大量に流れ込んでいるが、その反対の日本からの情報発信は極めて限られている。ちなみに2000年のアメリカの海外広報費は1,300億円であるのに対し日本のそれは2001年で43億円でしかないそうだ。 


シーシェパードのように自分たちが正しいと信じることを金と行動で世界に訴え国際世論を動かそうとする行為は日本人には馴染めないものであるが、欧米の国々は国際世論を自国に有利にするためのプロパガンダに予算をつけるのが当たり前のことなのだ。今回は原発事故というマイナス情報の発信であるが、日本として世界の人々から信頼される姿を示したいものである。 


私は著者が述べていることの中で、自然科学の言語は汎用性をもつが社会科学の言語は隠れた前提を持っていて背後にある歴史的、社会的、宗教的なものごとを理解しないととんでもない誤解を生むことになるとの指摘は、ソフトウェアシステムの設計における業務屋と技術屋の相互理解のヒントになると感じた。



言葉でたたかう技術 日本的美質と雄弁力

加藤恭子著、文芸春秋、2010年12月10日発行、定価:本体1,286円+税 ISBN978-4-16-373430-9


この本は、著者の経験をもとに、自己主張のにがてな日本人に欧米人との議論で負けない雄弁力を勧めている。日本的美質とされる、対立を恐れて自分の主張をはっきりと述べなかったり、交渉相手の前で顔の表情をあいまいにしたりすることは、外国人に誤解を与えることになる。彼らが育った文化的背景は大陸の民であって、いい顔をしたい日本人は島国の民である。物事に対するパーセプションギャップ(認識のずれ)がコミュニケーションのすれ違いを生むことになる。 

言葉でたたかう技術 加藤恭子

私は、日本人と外国人という構図は、ソフトウェアシステムの発注者と受注者あるいは業務屋と技術屋にも当てはまると思った。技術屋は我々がこれだけ懇切丁寧に説明しているのだから当然分かるだろうと思っても、業務屋からみるとわけの分からない3文字略号を並べ立てていて業務がどう変わるのかちっとも分からないということになる。それでは、これを解決するにはどうすればよいかをこの本は教えてくれる。 

著者は欧米人の議論のやり方の根底にあるのは、ギリシャのアリストテレスの「弁論術」にあると指摘している。アリストテレスによると「言論による説得には三つの種類がある。第一は語り手の性格に依存し、第二は聞き手の心を動かすことに、第三は証明または証明らしくみせる言語そのものに依存する。」と言う。語り手は信頼に足る人物だと思わせるようにして、聞き手をよく知り相手の弱点もしくは攻めどころを理解したうえで、真実の証明が見つからなくても真実らしく見えるものを持ってきてそれを証明として用いて、自己の正当性を主張し相手を説得せよと言っている。 

このアリストテレスの弁論術は、海外の団体やメディアの主張を見てみるとよく分かる。日本人なら真実でないことを主張することは憚られるが、欧米人は自己を正当化するためにはレトリック(弁論術)を使うと言うことである。日本人は、日本の主張の正当性を何度でも述べないと捕鯨は禁止になってしまうことになる。先ほどの技術屋と業務屋の話に戻すと、最後の証明が一番難しいが、業務屋の過大な要求事項をあきらめさせるために技術的な課題をあげて納得してもらうことには使えそうである。 

国際標準化の会議では口に泡を飛ばしてけんか腰で議論するが、会議が終われば仲良く酒を飲む欧米人のカルチャーは、このようにしてできているのだということがよく分かるこの本は、社会文化論的な意味でも面白く、外国人と交渉することになる人は是非読むことをお勧めする。

坂本光司著

あさ出版、2008年4月1日発行、定価:本体1,400円+税 ISBN978-4-86063-248-9

 

この本の著者は、法政大学大学院の教授で、「現場で中小企業研究や、がんばる中小企業の支援をすること」をモットーに全国を飛び歩いている。著者が意識して訪問している企業は、長期にわたり好業績を持続している企業や、業績はともかく、真に世のため人のためになる経営に懸命に取り組んでいる価値ある企業である。

この本では、5つの会社が取り上げられている。それは、障害者の方々がほめられ、役立ち、必要とされる場をつくりたいと50年も前から障害者雇用に取り組んでいる会社。「社員の幸せのための経営」、「戦わない経営」を貫き、48年間増収増益を続けている会社。「人を支える」会社には、日本中から社員が集まり、世界中からお客様が訪ねてくるといわれている会社。地域に生き、人と人、心と心を結ぶ経営を貫いていく会社。「あなたのお客でほんとうによかった」と言われる、光輝く果物店。 これらの会社に共通しているのは、経営者が高い志と信念を持っていることで、世のため人のために正義を実現しようと努めていることである。

筆者は、会社経営とは「5人に対する使命と責任」を果たすための活動だと述べている。

それは、

 

    1. 社員とその家族を幸せにする。
    2. 外注先・下請け企業の社員を幸せにする。
    3. 顧客を幸せにする。
    4. 地域社会を幸せにし、活性化させる。
    5. 自然に生まれる株主の幸せ。

 

一流企業の多くは、景気の良いときにはメセナとかフィランソロピーとか社会貢献を行うが、景気が悪くなるとまっさきにそれを切る。それに対して、企業の規模は小さくとも世のため人のために努力を続けている企業があることを知ると、日本も捨てたものじゃないと元気を得ることができる、そんな本です。続編の「日本でいちばん大切にしたい会社2」も出ていますので併せて、一読をお勧めします。

 

 

国をつくるという仕事

西水美恵子著

英治出版、2009年4月20日発行

定価:本体1,800円+税

ISBN978-4-86276-054-8

この本を読むきっかけは、2010年10月27日に野村総合研究所主催で開催されたNRI未来創発フォーラム2010のパネルディスカッションで著者の発言を聞いたことにある。著者の経歴はネットで調べればすぐに分かるが、私としては世界銀行の中でリーダーシップをとって組織改革を行い、貧困のない世界をつくることに尽力した日本人女性がいることを知ったことが喜びであった。

 

著者は、カイロの貧民街で得た原体験をもとに、欧州、中東、北アフリカ、南アジア地域の発展途上の国々を回り、貧困と戦う「正義の味方」として世界銀行で23年間活動して、現在は日本の次の世代のリーダーを育てる仕事をされている。本書のはじめにのなかに"貧困解消への道は「何をすべきか」ではなく、「すべきことをどう捉えるか」に始まると。その違いが人と組織を動かし、地域社会を変え、国家や地球さえをも変える力を持つのだと。"との文章があり、リーダーシップの原点を言い表していると思った。

 

この本の記述の中で、インドのある州の改革リーダーがどん底の生活を強いられる村民にかけた「君らはみな同じ人間だ。神に与えられた自治自主独立の精神を頼れ。政府に頼りっきりの発展などこの世にない。」との言葉は、今の日本で不満をいだいているあるいは安穏と生活している人々に、ひとつの指針を示すものだと感じた。 日本の外交が問われている今、草の根活動をした著者の体験談は非常に参考になり、かつリーダーシップとは何かを学べる貴重な本なので、是非一読をお勧めします。

 

これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学

この本の著者マイケル・サンデルは、アメリカの著名な政治哲学者でハーバード大学教授である。彼は講義の名手で、ハーバード大学の学部科目「Justice(正義)」は、延14,000人をこす人々が履修している。この講義の模様は、「ハーバード白熱教室」のタイトルで2010年4月から6月にかけてNHK教育テレビで放映された。8月にはNHK BShiで再放送される。

著者は、正しい行いとは何かを問いかける。一人を殺せば5人が助かる状況があったら、あなたはその一人を殺すべきか?金持ちに高い税金を課し、貧しい人々に再配分するのは公正なことだろうか?前の世代が犯した過ちについて、私たちに償いの義務はあるのか?本書のカバーに書かれている問題例である。社会に生活を営む上で、正解はないが判断をせまられる問題は、正義をめぐる哲学の問題であるとして論理が展開される。

この本の結論の部分で著者は、「この探求の旅を通じて、われわれは正義に対する三つの考え方を探ってきた。第一の考え方では、正義は功利性や福祉を最大限にすること-最大多数の最大幸福-を意味する。第二の考え方では、正義は選択の自由の尊重を意味する。第三の考え方では、正義には美徳を涵養することと共通善について判断することが含まれる。」(本書334ページ18行から335ページ4行、一部省略あり)と述べて、第三の考え方を支持している。

アメリカの市場至上主義や新自由主義といった経済界のモラルなき儲け主議に著者は警鐘をならしているといえる。日本ではアメリカナイズした経営者はマスコミがもてはやしている間は時代の子であったが、その儲けの手法が違法なものであることがわかった時点からはマスコミに袋叩きにあう。しかし、儒教の影響をうけている日本においては、一般国民からみると「お天道様はちゃんと見ている。」と国民のあいだに一定のモラルが潜在しているように思う。

アメリカの著名な政治哲学者が、道徳とか善という言葉を用いてより良き政治のあり方を述べるということは、経済的な格差が広がりすぎたアメリカの世直しに通じることのように思える。本書は350ページを超えるハードカバーであるが、提起される問題を自分ならどう判断するか考えながら読むと頭の体操にもなるし、アリストテレス以来の西欧の哲学の概念の理解にもなるので、一読をお勧めする。

      • 2010年8月25日に、東京大学でサンデル教授の特別講義があり、この模様は10月下旬以降にNHK教育テレビで放映される予定です。
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら

岩崎夏海著、ダイヤモンド社、2009年12月3日発行、定価:本体1,600円+税 ISBN978-4-478-01203-1

 

この本は、2010年7月22日で100万部を突破したビジネス書としては異例の売れ行きの本で、「もしドラ」と呼ばれているそうです。私も売れていることは知っていましたが、ベテランの税理士の先生から薦められて読んでみました。マネジメントに関する知識の中身は、ある程度研修を受けたことのある人にとっては基本的な事項で新しいものではありません。

何が受けているかというと、ドラッカーの言葉を具体的に野球部の活動の中で実践していく過程が描かれている点だと思います。本当の顧客は誰か?という命題は、研修の中のケーススタディで色々考えさせられますが、高校野球の顧客は誰かを具体的に示しているところが親しみのわくところだと思います。女子マネと選手の間のコミュニケーションのとり方も示唆に富んでいます。

システム開発のプロジェクトマネジメントにおいても、本当の顧客はシステムの発注者ではなく、そのシステムを運用する人、あるいはその先の発注企業のエンドユーザであることがあります。プロジェクトマネジメントにおいて、この視点がずれるとシステムは完成したが使われないということが起こります。  システム開発プロジェクトであれ高校の野球部であれ、人が構成する組織をうまく動かすためにはマネジメントは必須でありますが、従来は先輩がやっていることを見よう見真似で学ぶことが多かったと思います。若いころから科学的なマネジメント手法を学んで実践していく人が増えれば日本の将来は明るくなると思います。

軽い読み物として馬鹿にしないで読んでみることをお勧めします。

 

「言語技術」が日本のサッカーを変える (光文社新書)

田嶋幸三著、光文社新書、2007年11月20日発行、定価:本体720円+税 ISBN978-4-334-03426-9

 

この本は、個々のサッカー選手が論理的に考え、自主的に判断する力をつければ日本のサッカーも強くなると主張しています。また、若手選手の育成の為には全寮制のエリート教育が必要であり、それを福島で実践していると述べています。今回のワールドカップで日本チームが活躍しているのは、この本に書かれている選手育成がうまくいった結果なのかもしれません。

 

論理的に考えるのは工学の世界では当たり前ですが、普段の生活の会話は論理的でしょうか?「あれ」という代名詞でお互いの会話が成り立ってしまうことはありませんか?英文に訳そうとしたら主語が見つからない日本文になっていませんか?「言語技術」は子どものころから論理の通った話をするための訓練方法を提示しています。5W1Hを思い出してください。

 

サッカー選手が試合の中で自分個人と周囲の状況を観察し、論理的に判断してパスをだす能力を高めることがチーム強化につながるは間違えないと思います。日本人はグループで仕事をすることは得意ですが、グループの個々のメンバーが仕事に対して論理的に考えて意見をいうことは少ない気がします。グループのリーダーの言いなりになっていては良い仕事はできません。

 

日本の教育は答えのある問題を出して、ひとつの正解しか認めないのが普通です。ところが社会に出れば答えのない問題、あるいは複数の答えの考えられる問題がたくさんあります。子ども達は、先生が提示する正解と違ったことを発表したがらないですし、なぜそれが正解なのか?どういう考え方でそれを求めるのか?といったことには頓着しません。

 

人と違った意見を持つことをきらうような子どもを育てる教育はよくないと思いますが、子どもたちを教える先生方も同じ教育を受けてきているのですから、自立した個人を育てるのは家庭と地域社会の役割と思うしかありません。この本は、サッカーだけでなく日本を変えるためのヒントになると思います。

 

 

創るセンス 工作の思考

創るセンス 工作の思考 (集英社新書 531C)

 

この本は、技術のセンスについて述べているもので、技術のセンスとはなにか?それはどうすれば身につくか?ということを著者の体験から解き明かしています。私は、この著者を小説家であり、庭園鉄道の本の作者であるとして以前から認識していましたが、この新書は大変示唆に富んでいると思います。

 

システム開発に携わる技術者には、技術に対する勘というかセンスというか、何かことが起こったときに直感的に原因が推察できる感覚が、長い経験のなかで身についてくるものです。それは、新しいシステムを作るときに、設計段階で技術者の頭の中に出来上がったシステムの姿が浮かび上がり、それを設計図に落としていくという感覚と同じだと思います。

 

世の中の技術がアナログからデジタルが主流に変わって、何でも1/0でけりがつきそうですが、システムで問題が生じるのはアナログの部分です。アース、雑音、電源といった設計時には問題ないと思っていた項目が、システムが現場に入ったときにトラブルの原因になることがあります。これらのトラブルの解決は、デジタルの時代から入った技術者には難しく、アナログ時代からの技術者に一日の長があると思います。だからと言ってアナログを経験した技術者全員が技術のセンスを持っているわけではありません。

 

 

 

 

著者は、子どものころから50歳を過ぎた現在に至るまで工作好きで、自分の手を動かして物を作り続けており、そのことが技術のセンスを身につけることに役立ったといっています。そして、子どもに大人が夢中になって工作に打ち込む姿を見せることが、子どもの興味を引き出しやがて子どもが工作をするようになれば、その子に技術のセンスがつくようになると言っています。

 

自分自身が、小学生6年生の夏休みの作品にゲルマニウムラジオを作って以来、真空管ラジオや真空管のオーディオアンプを作ったり、真空管のテレビを直したり、とにかく自作することをやってきたので、著者の意見には共感するところが多くあります。私の家族は物がこわれると何でも私に修理を依頼してきます。ほとんどのものは直すことができるので、これも技術のセンスかなと思います。

 

 

わかりやすいSDH/SONET伝送方式
  • 河西宏之、槇 一光、辻 久雄、上田裕巳著、オーム社、
  • 2001年4月25日発行、定価:3.360円(税込)
  • ISBN978-4-274-03551-4

この本は、私が1989年ごろNTTネットワークシステム開発センタでSDH(Synchronous Digital Hierarchy)伝送装置の開発に携わったときの指導者および同僚と共著で書いた物で、出版年月は古いですが今でもSDHに関する唯一の教科書です。自分で書いた本の宣伝で少し気が引けますが、通信を勉強したい人には絶対にお勧めです。

この本の構成は以下の通りで、基礎的なところからネットワークまでを網羅しています。

  • 1章 ディジタル伝送方式のあらまし
  • 2章 ディジタル多重化技術の基礎
  • 3章 SDHインタフェース技術
  • 4章 SDH伝送技術
  • 5章 SDH伝送装置
  • 6章 網同期装置
  • 7章 SDHを適用したネットワーク
  • 8章 オペレーションサポートシステム

SDHインタフェースの基本的考え方は、現在の最先端の光トランスポートネットワーク(OTN: Optical Transport Network)でも変わっていません。イーサネットの信号を長距離伝送するためには、オーバヘッドと呼ばれるフレーム同期と運用保守情報を転送する部分とペイロードと呼ばれるイーサネットの信号を収容する部分からなるフレームを組んで転送する必要があり、ITU-Tで標準が作成されています。

インターネットの時代でも、大量の情報を転送するインフラストラクチャには手堅い技術が用いられており、その技術を理解するためにも、是非読んでいただきたいと思います。

共通フレーム2007 第2版

共通フレーム2007―経営者、業務部門が参画するシステム開発および取引のために (SEC BOOKS)

独立行政法人情報処理推進機構 ソフトウェア・エンジニアリング・センター編オーム社

2009年10月1日発行、定価2,500円(本体2,381円+税) ISBN978-4-274-50247-7

 

この本は、国際規格ISO/IEC 12207の完全翻訳であるJIS X 0160: 2007「ソフトウェア・ライフサイクル・プロセス」というソフトウェア開発プロセスのモデル規格を包含して、日本のソフトウェア取引の現状にあわせた拡張を行った「共通フレーム」を解説したものです。

 

共通フレームは、システム開発における発注側と受注側の共通のものさしとなるよう、企画・開発プロセスの名称とその中身を定義し、ユーザー企業とベンダーの間で使われる言葉に誤解を生まない環境を提供するためのものです。共通フレームでは、国際規格に加えて要件定義プロセス、システム監査プロセスなどを追加しています。

 

 共通フレームの歴史は長く、最初に『ソフトウェアを中心としたシステムの取引に関する共通フレーム』(共通フレーム94)が作られ、次に『ソフトウェアを中心としたシステム開発および取引のための共通フレーム 1998年版』(共通フレーム98)が作られました。

 

私はこの共通フレーム98の策定委員会に利用部会長として参画し、その出版・普及に努めましたが、担当した出版社が倒産し、本は絶版となってしまいました。 その後、国際規格の内容が拡張・充実し、2007年9月に『共通フレーム2007』が発行され、この『共通フレーム2007 第2版』が最新版です。この本はB5変形版で336ページあり読破するのは大変かもしれませんが、ソフトウェアを中心としたシステム開発に係わる技術者の方々には、是非読んで活用していただきたいと思います。

 

新・技術者になるということ〈Ver.6〉これからの社会と技術者

 

この本は、大学1年生の授業に使う教科書として書かれたものです。

内容は、技術者になるということの意義から日本のおかれた状況、技術者の責任と倫理さらには技術者のライフ・プランに至るまで、非常に広い範囲をカバーしている300頁の大作です。

 

私は、この本とは2000年ごろに出合ったのですが、その内容を読んで企業の新入社員に読んでもらうよう勧めてきました。技術者ということではなく社会人として働く人に必要な心構えが網羅的に書かれていますので、技術の部分を読み飛ばせば文系の人にもお勧めの本です。

 

特に、技術者の責任と倫理については、具体的な事故事例をあげて技術者としての社会的責任と属する組織への責任について述べるとともに、色々な組織の技術者倫理規約を引用しています。日本では、個人が組織に流されて責任があいまいになることが多いことを強く戒めています。  システム開発を行う技術者として、大局的判断力を養うためには必読の書といえます。