これからの「正義」の話をしよう――いまを生き延びるための哲学
この本の著者マイケル・サンデルは、アメリカの著名な政治哲学者でハーバード大学教授である。彼は講義の名手で、ハーバード大学の学部科目「Justice(正義)」は、延14,000人をこす人々が履修している。この講義の模様は、「ハーバード白熱教室」のタイトルで2010年4月から6月にかけてNHK教育テレビで放映された。8月にはNHK BShiで再放送される。
著者は、正しい行いとは何かを問いかける。一人を殺せば5人が助かる状況があったら、あなたはその一人を殺すべきか?金持ちに高い税金を課し、貧しい人々に再配分するのは公正なことだろうか?前の世代が犯した過ちについて、私たちに償いの義務はあるのか?本書のカバーに書かれている問題例である。社会に生活を営む上で、正解はないが判断をせまられる問題は、正義をめぐる哲学の問題であるとして論理が展開される。
この本の結論の部分で著者は、「この探求の旅を通じて、われわれは正義に対する三つの考え方を探ってきた。第一の考え方では、正義は功利性や福祉を最大限にすること-最大多数の最大幸福-を意味する。第二の考え方では、正義は選択の自由の尊重を意味する。第三の考え方では、正義には美徳を涵養することと共通善について判断することが含まれる。」(本書334ページ18行から335ページ4行、一部省略あり)と述べて、第三の考え方を支持している。
アメリカの市場至上主義や新自由主義といった経済界のモラルなき儲け主議に著者は警鐘をならしているといえる。日本ではアメリカナイズした経営者はマスコミがもてはやしている間は時代の子であったが、その儲けの手法が違法なものであることがわかった時点からはマスコミに袋叩きにあう。しかし、儒教の影響をうけている日本においては、一般国民からみると「お天道様はちゃんと見ている。」と国民のあいだに一定のモラルが潜在しているように思う。
アメリカの著名な政治哲学者が、道徳とか善という言葉を用いてより良き政治のあり方を述べるということは、経済的な格差が広がりすぎたアメリカの世直しに通じることのように思える。本書は350ページを超えるハードカバーであるが、提起される問題を自分ならどう判断するか考えながら読むと頭の体操にもなるし、アリストテレス以来の西欧の哲学の概念の理解にもなるので、一読をお勧めする。
- 2010年8月25日に、東京大学でサンデル教授の特別講義があり、この模様は10月下旬以降にNHK教育テレビで放映される予定です。
