Hybrid TV and New Era! ハイブリッドテレビと世界市場

--The Hottest Business Trends of 2015--

 

著者: 福井省三(Shozo Fukui:IPTVフォーラム理事、NICT特別研究員、当社顧問)

 

昨年,アムステルダムで開催されたIBC(国際放送カンファレンス)で、当時EUの副大統領だったクローゼ女史の特別講演を聞く機会があった。その時、"デジタル・シングルエコノミー"という言葉をはじめて聞いた。求心力に陰りが生まれるEUだが、クローゼ女史は、デジタル・シングルエコノミーをつくることが、欧州にとっても、次のイノベーションを生むために、絶対的な選択であることをしきりに強調した。この報告では、個人情報の規制の見直しそのものについては触れないが、米国--欧州--日本の最新の動きをキャッチアップしてみたい。

(1)はじめに

デジタル・シングル・マーケット

米国では、2015年中にスマートフォンの普及率が85%を越え、量的な拡大は一段落する。しかし、スマートフォンが生んだ生活革命は止まらない。HTML5の標準化によって、放送や新聞など既存のメディアとインターネットは、サービスを隔ててきた垣根が取り払われて、デジタル・シングルマーケットへ向かうことになる。規制の下にあった放送サービスと規制のないWebサービスが、ひとつ端末に同居、あるいは、端末間で連携していく。世界がいま、デジタル・シングルマーケットへ向かう中で、情報メディアは、新しい秩序を模索している。

(2)無視できない現実とは

モバイル広告は、米国勢が圧倒的な強み

インターネット上の多くのサービスは無料であり、広告によって支えられてきた。インターネット広告は、相変わらず成長し続けているが、モバイルをつかった広告では、全世界の売上のうち、米国のグーグル社(46.8%)とフェースブック社(21.8%)が圧倒的なシェアを誇る。HTML5がもたらすマルチスクリーンの時代は、いまのままでは、ソーシャルメディアSNSがテレビ番組の視聴者をスマホに集客しても、そこで、収益を稼ぐのは、もっぱらグーグルやフェースブックであるという現実の中にある。

スマートフォン広告の世界売上シェア

パーソナルデータの流出

Webの巨人たちは、利用者のパーソナルデータを駆使して、多くは利用者の知らないところで、サービスのウイングを広げている。欧州では、とりわけ、米国勢の攻勢が目立ち、各国のWebサイトのランキングでは、米国勢が上位を独占している。インターネットの普及が進めば進むほど、その傾向は加速度が加わり、メディアの先進地域であるイギリス、ドイツでは、かってはランキングの上位にあったイギリスのBBCやドイツ民放のSat1も、5位以内から姿を消した。パーソナルデータが米国へ流出していることについての欧州の不満は強いが、利用者の選択の結果であるという現実がそこにある。EU、なかでも、イギリス、ドイツは、利用者の許諾を前提に、パーソナルデータの利活用へ向けて、舵を切っている。

パーソナルデータの流出

ミレニアム世代が、消費をリード

さらに、日本に目を向けた時に、実に厳しい現実が別にある。

アジアのマーケットにおいて、市場を牽引する主力となっているのは、ミレニアム世代と呼ばれる34歳以下の人々である。34歳以下が占める割合は、アジアにおいては、58%と半数以上であるのに対し、日本はわずか34%。世界の52%にも遥かに及ばない。一方、55歳以上は、日本が26%、アジアは8%。スマホやSNSの利用面において、日本の市場に、世界のマーケットの動きに、遅れを生じているのは、変化に素早く反応する若者中心の社会か、高齢化の社会か、ということも大きく影響している。

アジアは34歳以下が58%

(3)これからの放送のカギ

放送とインターネットを隔ててきた壁がなくなると、放送にとってはインターネットの世界へ、インターネットにとってはリアルタイムな世界へと、新しい地平が広がることになる。そして、地平のかなたにある新大陸は、いま、スマホを中心にしたパーソナルな端末上の中にあることは間違いない。これからは、テキストではなく、ビデオが宝の山になるとみられている。米国の調査会社の報告によれば、2014年には、広告市場全体の9.8%しかなかったモバイル広告が、3年後の2018年には、26.4%に急成長すると予想されている。

しかも、ビデオ広告が主流となる。

新聞、雑誌、ラジオなどの広告は、モバイルにシェアを奪われていく一方で、放送は、2014年の38.1%から、2018年には、35.7%へと落ち込みは意外と小さい。放送とPCに比べ、放送とモバイルは、[TV Everywhere]を実現し、

親和性が高い。放送広告とモバイル広告は、互いに足を引っ張る関係にない。

米国 スマホの普及は止まっても、広告媒体としては、これから。

欧州の放送界の積極的な動き

インターネットの本場、米国より、欧州の放送局において、放送の新しい可能性について、積極的な動きが目立つ。欧州の放送局の組織としては、欧州放送連合(EBU)が有名だが、民間放送連盟(ACT)の活動も見逃せない。欧州のテレビは、もともと米国や日本とは異なる歴史をたどってきた。第二次大戦中に、イギリス以外のメディアはナチスドイツの支配や影響を強く受けた。特に、ナチスの宣伝機関とみられた放送は、戦後、厳しい反省の下に立たされた。放送の中立性に重きがおかれ、放送ビジネスの開花は遅れることになる。欧州に民間放送が次々と誕生したのは1980年代からだが、遅れてきた分、インターネットなどへの対応は早かった。多くは複数の国で免許を取得したメディアグループとして発展していく。代表的なのが、ルパート・マードック率いるSKYやドイツのベルテルスマンが保有するRTLグループであった。欧州民放の動きは、ベルリンの壁の崩壊以降に活発化し、EUの経済統合の動きとも重なって、ビジネスチャンスを広げていった。タフで個性的な経営者の下で、インターネットの攻勢にも、それをバネにして事業を広げる逞しさがある。

欧州の放送

そうした民放各局の中で、新しいモデルに果敢に挑戦している代表的な例がイギリスの民放Channel 4の取り組みである。Channel 4は、自局の放送番組の視聴者を追跡調査し、「生」、「録画」、「VOD」(ビデオ・オン・デマンド)の3つに分けて分析している。好きな時間に好きな番組を見る視聴者が増えて、VODの割合が28%, 26%とひじょうに高いケースがある。視聴率には、反映されない放送外の「視聴者」をビジネスとしてどう取り戻すのか。イギリスのVODサービスは、現在、放送後7日までは無料で提供されている。また、テレビばかりでなく、PCやスマホでもVODを楽しめる。Channel 4をはじめイギリスの民放は、VODの視聴ログを分析することによって、視聴者との新たな「接点」を探し出す努力を行っている。いづれ、広告主に対して最適な接点を提供し、マス広告より広告効果の高いターゲット広告で、別の広告費をもらう計算である。

VODの普及(英チャンネル4の調査)

こうした取り組みは、イギリスだけでなく、欧州の先進地域にすでに広がっている。各種の報告によれば、イタリアでも、視聴者のマルチスクリーン化は確実に広がっているし、ドイツでは、放送の視聴率は、この先、下降線をたどるとみられているものの、VODサービスの広がりによって、放送コンテンツと視聴者の全体の接点は、いま以上に増えていくと見られている。TV everywhereは、放送にとってもチャンスであるとみられている。

ドイツ民放の調査 ProSieben Sat1  イタリア民放のVOD調査 Infinity, Mediaset

広告主の多くも、モバイル広告の世界の変化の兆候を見逃さない。グーグル社が生んだ検索キーワードに紐付いた広告モデルが一世を風靡してきた感があるが、米国、欧州の最新の分析では、モバイル上のビデオ広告にプログラマチックという新しい広告手法が施され、これから急速に数字を伸ばしていくとみられている。そうなれば、グーグルやフェースブックが誇る世界市場シェア70%という牙城も安泰ではなくなってくる。

2015年がプログラマチック広告元年。一気に加速!

プログラマチック広告では、利用者の属性データにもとづいて、番組ごとに利用者のプロファイルを細かにセグメント化する。広告主が求める利用者のセグメントを探し出し、時間や場所によって最適な端末を選んで、広告主に広告機会を提供しようとするものである。

米国、欧州の調査会社のレポートには、モバイルでおきた変化は、やがてVOD市場にも波及し、さらに、この新しい広告手法が、テレビを起点にしたサービスにおいて大ブレークするという見方が止まらない。

(4)新しい広告とパーソナルデータ

プログラマチック広告

F1とかM1とかいった年齢層や性別による簡単な分類しかしてこなかった放送局も、これからは、双方向で結ばれた参加型の番組やVODサービスにおいて、もっときめ細かな視聴者の属性分析を行うことになるといわれている。そのためには、さらに一歩踏み込んで、インターネットのWebサービスがすでに使っているのと同じようにパーソナルデータが欠かせなくなるとみられている。従来、放送局の営業は、個々の番組について、広告代理店を介して広告主にCM枠の売り込みを行ってきたが、その多くは、営業マンと広告主の宣伝マンの極めて人間的な作業で組み立てられてきたものだ。それが、プログラマティック広告では、放送局側が保有する視聴ログといった"ビッグデータ"を広告主側の製品ごとのCRMデータを照合させ、最適な広告チャンスを自動的に選んでいくといったプロセスに変わっていく。すでにモバイル広告ではじまっている参加者を限定したPrivate MarketplaceやProgramatic Directと呼ばれるモデルがそこにあてはまるとみられている。モバイルでは、米国の有力な広告主はプログラマチック広告をいろいろためしはじめているが、いづれ、放送でも試していくことは間違いない。冒頭で米国の広告の今後の推移を予測した調査会社の報告で、モバイル広告の伸びに比して、テレビ広告が思ったよりも減らないのは、調査会社が、テレビにおけるプログラマチックな広告の採用を織り込んでいるからと言える。

テレビ視聴の属性分析が進めば、テレビはプログラマチック広告の宝庫になる。

プログラマチック広告の定義

米国では、一昨年、個人の利用者から毎月の手数料7.99ドルを受け取り、放送電波の受信を代行し、個人のモバイルにインターネット回線経由で、放送を再送信するAereoと呼ばれるサービスがはじまった。放送局は、著作権を犯すものだと反発し騒動に発展した。最終的には、最高裁の判決で、放送局側の訴えが認められて決着したが、日本のワンセグのように、モバイルで放送を見ることの出来なかった米国の人びとが、実際にAereoと受信代行契約を結んだ「体験」は、新しいサービスについて一定の需要があることを証明する結果となった。第二、第三のAereoの登場を恐れた米国の放送ネットワークは、Aereo事件のあと、これまでのディフェンシブな姿勢を捨て、モバイル向けのサービスを見直すことになった。4大ネットワークのひとつCBSは、昨年11月にAll ACCESSと呼ばれるIP放送とVODサービスを月決め5.99ドルで開始している。新事業が採算にあっているかどうか、数値が公表されていないのでわからないが、この新サービスは、契約収入そのものより、視聴者の視聴履歴など今後のプログラマチック広告に必要なビッグデータの収集が行えるといった戦略的な副産物が大きいと見られている。これからの放送は、視聴率だけで商売するのではなく、番組と広告をありとあらゆる視聴者の利用シーンに効果的に露出し、収益を極大化するというトータルビデオ戦略へ向かうことになる。

米国 CBS  ALL  ACCESS

世界の趨勢。放送も視聴者の属性データを分析したプログラマティック広告へ。

先ほど、欧州では、米国よりも早く、変革がスタートしていると記述したが、ドイツでは、すでに、VODサービスにおいて、新たな広告収入がカウントされている。2013年は、こうした広告がはじまった元年に相当するが、テレビ全体の広告収入の0.2%として計上された。2014年は、さらに、数字が伸びている。

 

VODなどIPサービス広告収入

 

(5)放送の進化とハイブリッドテレビ

欧州HbbTVと日本ハイブリッドキャスト

放送とインターネットをめぐる変化の激流の中で、ハイブリッド型の放送で先鞭をつけたのは、独仏を中心としたHbbTV(Hybrid Broadband Broadcast TV)の取り組みだった。ハイブリッド型の放送が特長とするのは、テレビに通信回線を接続し、放送とIPTV, ブロードバンドをつかったコンテンツ配信を結合したサービスである。外付けのSTBを介してテレビ端末やPCでサービスを受けられる。ドイツ、フランス、スペインの放送局を皮切りに2011年12月にはじまったサービスは、2014年末の段階では、20カ国にサービスが広がった。

HbbTV 1.0では、検討時期が早すぎたために、HTML5ではなく、CE-HTMLという古いブラウザが使われており、モバイルとの連携は実現していない。

HbbTVのアプリケーションとしては、欧州で人気のあるVODが重視されている。また、米国のグーグルなどとの激しい対立の中で、EUを中心に見直されてきたパーソナルデータの保護と利活用の両立について、開発当初より考慮されている。ドイツ最大の民放であるProSiebenは、すでに利用者の視聴履歴などを、今後の放送サービスに生かしていく考えを明らかにしている。いまのところ、HbbTVのアプリ基盤として共通のプラットフォームはなく、放送局は個別のバックヤードで対応している。

欧州HbbTV    2012年

日本のハイブリッドキャスト  2013年

先行した欧州のハイブリッド型放送を追いかけるように開発されてきたのが日本のハイブリッドキャストである。もとはNHKの技術研究所で開発されたものであるが、現在は、IPTVフォーラムJapanが推進母体になって、2013年に仕様を公開し、日本の主要な民間放送局やケーブルテレビもサービスをはじめている。日本では、2000年にBS衛星放送で導入されたデータ放送が、地上放送、CATVにも広く普及しており、ハイブリッドキャストは、そのデータ放送を高度化した後継モデルとも言える。

日本のハイブリッドキャストでは、Webの世界的な民間規格団体であるワールドワイド・ウエブ・コンソーシアムW3Cが策定中であったHTML5(2014年末にW3Cは最終的に仕様確定)を世界ではじめてテレビに実装し、CE-HTMLのHbbTVを追い越すことになった。ハイブリッドキャストでは、同じHTML5のブラウザを実装したスマートフォンとタブレットとの端末連携も可能になった。NHKや民放のサービスにおいては、番組連動による参加型のクイズや投票などが実施されているが、視聴データの活用はランキングや画面のパーソナライズなど限定的で、マネタイズには至っていない。総務省の検討会では、ハイブリッド型サービスにおけるパーソナルデータの利用許諾の方法などについて検討がはじまっている。また、民放キー局において、VODサービスの共通プラットフォームについても検討がはじまっているが、本格的な導入はまだである。

そうした中で、HbbTVは、ハイブリッドキャストと同じようにHTML5をテレビに実装する2.0の規格をまとめ、2016年からサービスの開始を決めている。

イギリスのBBCと民放局でつくるVODプラットフォームであるYouViewは、このHTML5の採用を検討している。マルチスクリーン化も可能になる。視聴データを本格的に活用したプログラマチック広告がいよいよイギリスでテレビでもスタートする可能性がある。おそらく、このYouViewが、今後のハイブリッドテレビ全体の仕組みのひな形になっていくことになると思う。

HbbTVは、国際展開にも積極的で、オーストラリアやニュージーランドの放送局がサービスを開始し、ASEANでは、2015年からデジタル放送へ移行するマレーシアが、ディジタル放送全体の共通プラットフォームとしてMYTVを発足させたが、そのMYTVがアプリ・サービスとしてHbbTV1.0の採用を決めている。

HbbTVを推進するHbbTV Associationによれば、アラブ放送連盟もHbbTVの採用を決めている。

HbbTVは、HTML5を採用

マレーシアは、HbbTVを採用、共通プラットフォームMYTVで運用

(6)通信の世界でおきている最新の動き

デジタル・シングルマーケットへ向かう現実の中で、ビジネスの変換を迫られているのは、通信事業者も同じである。米国では、固定回線の光ファイバー化、携帯電話網の4G/LTE化が進んでいるが、通信事業者の最大手のベライゾン社が、この5月12日にAOLの買収を発表した。AOLはかっては全米最大の会員数を誇るISPで、タイム・ワーナーとの合併を行い巨大なメディアグループの一翼を形成していたものだが、その後、事業を縮小してグループを離れた。

今回の買収にあたって、ベライゾン社の会長兼CEOのマクアダムス氏は、「ベライゾンのビジョンは、顧客向けにグローバルなマルチスクリーンのプラットフォームによるプレミアムなサービスを提供することにある。AOLの買収は、消費者、制作者、広告主に向けたベライゾンの戦略を強化するものだ。」と語っている。ベライゾンのAOL買収の狙いは何か。ベライゾンは、事業の基盤として、固定回線のFTTHと無線の4G/LTEの整備を進めている。しかし、回線サービスによる事業収入は、長期的に低落傾向にある。その分、アプリケーションなど上位のレイヤーのサービスによる収益を増やすことが、必須になっている。スピンアウト後のAOLはビデオコンテンツのサービスとビデオ広告のプラットフォームに経営資源を注力してきた。

オンラインビデオ月間ランキング

最新のAOLの事業実績

今回のベライゾンによるAOLの買収は、IPTVやVODのサービスにプログラマチックな広告を導入するにあたって、AOLの広告プラットフォームを活用することが近道と判断したという見方がもっぱらである。

ベライゾンの強力なサービス基盤

米国 通信サービス モバイル向けの新規ビデオビジネス

放送の進化にあたって、カギとなるのは何かについてまとめた(3)でも触れたが、これからの成長は、もっぱらモバイル上のビデオ広告にある。ここで、オンライン広告のプラットフォームの全米ランキングを見て欲しい。

人口到達率でアクセス1位のBrightRoll社については、昨年11月にYahooが買収している。そして、2位のLiveRail社についても、昨年7月にFacebookが買収した。そして、今回、ベライゾンが、AOLの買収を決めた。今後、プログラマチック広告が、モバイルから放送、IPTV、CATVにおいても主流になっていくことを見込んで、早くも、ミドルプレーヤーの争奪戦が繰り広げられている感がある。因みに、4位のSpecific社は、マードック氏のNews Copeが所有するSNSのマイスペースが買収済である。また、日本の家電メーカのパナソニックが、米国市場向けのスマートテレビで、Specific社と提携して、テレビのインターフェースを視聴ログによってパーソナル化するマイスクリーンのサービスを実施している。また、こうしたビデオ広告のプラットフォームの多くが欧州にも拠点をおいて、欧州のハイブリッドテレビに新しい広告エンジンを売り込んでいる。

オンラインビデオ広告

オンラインビデオ広告数

(7) これから

デジタル・シングルマーケットにおいては、基本的にIP技術が主役になり、ソフトウエアが重きをなす。ハードウエアを中心にレガシーな技術によって成立してきた技術分野においても、オープンなインターフェースによって、技術の壁は破られて、ひとつにつながっていく。そして、いま注目されているIOT(Internet of things)やビッグデータの活用といった考え方が生まれている。いままで、ゆったりと動いてきた技術分野においても、超スピードで市場が変わっていく。彗星のごとく登場して、世界的な普及となったスマートフォンは、その成功例であるし、それがもたらす更なる変化は、これからなのであろう。

日本はどうする? 楽観的な見通しはない。

新しいプログラマチックな広告などは、多かれ少なかれ、利用者の属性などパーソナルなデータが分析のベースになる。スマホの使い方に慣れた若者の方が、新しいサービスを理解し、許容度も広く、市場を牽引していくことになるであろう。米国のコンサル会社の調査によれば、例えば、スマホによるビデオの視聴時間を年齢別にみると、若者は、スマホでもテレビ番組のようなビデオを比較的、長時間にわたって見る割合が高い。一方、高年齢層は、短いビデオしか見ていない。高齢者が多い日本市場は、全体として、ビデオ化のスピードは鈍くなる。また、SNSの使われ方を見ても、日本市場は、諸外国に比べ、際立って、利用率が低い。ビデオの視聴ログ、SNSをつかった発信量、いづれも、プログラマチック広告の属性分析の「苗床」になるものであろう。これからの日本において、プログラマチックな広告の土壌がどう変わっていくのか注目したい。

日本市場 スマホのビデオ視聴 世代間格差インターネット利用者のSNS比率  

ここに、米国の調査会社が発表したアジアにおけるモバイル広告の予測グラフというものがある。アジアの主要国について、2013年から2018年までのモバイル広告の伸びとシェアを表したものである。このグラフで示されたシェアが、露出されるモバイル広告の本数によるものなのか、広告の売上高によるものなのかはわからない。また、いま現在、モバイル広告で圧倒的な強みをもつ米国勢の存在がどこにあるのかも読めない。しかし、日本のこれからを考えるときに、気になることが多い。

広告全体の伸び率

多くの国々においてモバイル広告の急成長が予測されているが、日本は際立って伸びが小さい。日本の市場シェアは、2013年の29.5%から、2018年には12.8%へと一気に減ってしまう。調査会社の予測は、アジアのモバイル広告市場にもプログラマチックな広告手法が浸透するとみているのだろうか。日本は、世界の成長センターになっているアジアで、これから、急速にプレゼンスを失うということになるのだろうか。

日本でも、いま国会で個人情報保護法の改正案が審議されている。法案が成立すれば、個⼈情報の取扱いの監視監督権限を有する第三者機関 (個⼈情報保護委員会)が発足する。ようやく、欧米並みの体制が整う。細かな規定つくりはこれからはじまる。パーソナルデータの保護と利活用については、世界的に新しいルールつくりが進んでおり、データが国境を越えて蓄積、分析、活用される時代を迎える。パーソナルデータの利活用はユーザの許諾を得ることが前提になると思うが、ユーザ保護の環境が確立すれば、ビデオコンテンツ、広告といったものは、国内にとどまらず、ネットの機能を使って、国際的な展開が可能になる。保護と利活用の両面をかなえる有効な規制の方法を見出さないと、日本はビジネスの潮目から、どんどん遠ざかっていくであろう。

新しい秩序つくり。「公」と「民」のミドルプレーヤー

IPのスピード感を生かしつつ、レガシーな安定感をどのように保つのか。そもそも、規制をともなう放送と規制のないインターネットをひとつ端末の中に同居させる、あるいは、端末間で連携させることになる。サービスの供給者と利用者の間で、規制の違いをどう理解しあえるのか。規制の考え方はこれまでのままでよいのか。おそらく、デジタル・シングルマーケットでは、規制機関は従来とは違う役割が求められ、また、ビジネス面では、いままでにない新しいプレーヤーが必要になる。

そうした新しいプレーヤーを技術とサービスをつなぐ「ミドルプレーヤー」と呼びたい。おそらく、ミドルプレーヤーは、国際舞台でも通用し、国境を越えて活躍することになる。まず、「公」のミドルプレーヤーについてだが、デジタル・シングルエコノミーにおいて、規格化が引き続き重要なことは言うまでもないが、市場の変化のスピードに対応して、ライトなサービスとして早く実現してみせることが重要になる。市場の受け止め方などをみながら、改良していくリーンな開発手法が優先される。そのためには、技術規格をつくっておしまいではすまなくなる。規格は、第一ステップであり、次のサービスのルールつくりがこれからは重要になる。そこでは、利用者の信頼を得られる自主規制の考え方と規制を担保する第三者機関の役割が増す。

IPTVフォーラムの新しい役割デジタル・シングル・マーケット新しいエコシステムを支えるミドルプレーヤーが重要

日本では、ハイブリッドキャストの開発にあたっては、総務省がステークホールダーを招集し、利用者の「安心安全」とアプリ開発者のために「オープンな開発環境」を守るという基本理念をまとめた。IPTVフォーラムは、技術規格の策定の仕事だけでなく、基本理念を担保する第三者機関としての役割をいまは担っている。プラットフォーム事業者やアプリ開発者は、IPTVフォーラムに対し、基本理念を守ることを約した届け出を行う。そのことと引き換えにサービスに必要なIDの発布を受ける。アプリが、ルールに反した場合には、IPTVフォーラムは、最悪、IDを取り消すこともできる。また、IPTVフォーラムは、端末ごとにサービスの扱い方が異なっていては利用者が混乱するため、サービスルールで決めた端末の動作についてチェックするためのテストセンターも整備している。

さらに、利用者のリテラシーという点でも、第三者機関は重要になる。今後、ハイブリッドテレビのサービスにおいても属性分析が利用者の利便性を増すことになると思う。法律改正に伴う第三者機関の発足によって、ハイブリットキャストのサービスにおいても、パーソナルデータの扱いと自主規制を誰がどう行うのかを明確にしていかなければいけない。イギリスでは、すでに民間の自主規制機関が機能している。

「公」のミドルプレーヤーと並んで、エコシステムの担い手として、ビジネスのミドルプレーヤーが欠かせない。日本においても、「民」のミドルプレーヤーの出現を待ちたい。

ディジタル・シングルエコノミーを真に発展させていく上で必須になるマネタイズには、プラットフォーム事業者、アプリ開発者以外に、パーソナルデータを預かり管理する専門業者、データの分析者、広告エンジンの事業者といったミドルプレーヤーが必要になってくる。この報告では、米国におけるミドルプレーヤーの展開について紹介した。いまのままでは、日本は、海外のプレーヤーによる国境を越えたサービスに頼るしかなくなる。日本においても、米国と似た展開になっていくのであろうが、日本においても信頼のおけるミドルプレーヤーの育成が必要なのではないか。

国際展開の戦略仮説

最後に、これから、日本がハイブリッドテレビを国際市場でどのように展開していくべきか、考えておきたい。

放送の進化。ハイブリッドテレビの動きの中で触れたように、欧州のHbbTVは国際市場に積極的にアプローチしている。とりわけ、ASEAN諸国においては、HbbTVと日本のハイブリッドキャストがぶつかることになる。

しかし、重要なことは、デジタル放送の技術方式のときのような陣取り合戦を繰り返すことではないと考える。デジタル・シングルマーケットでは、アプリケーションが重要になる。ひとつアプリを最大限に有効活用できるマーケットをいかに確保するかが肝要になる。その意味では、アジアの統一規格をHTML5にすることが大事だ。また、ハイブリッドキャストを推進するために日本が掲げてきた「安心・安全」と「オープンな開発環境」を守るという基本理念は、アジアにおいても、有効な考え方であると思う。

さらに、技術とサービスをつなぐエコシステムを機能させるためには、アジアにおいても、官による一律的な規制に頼るのではなく、IPTVフォーラムのような第三者機関による自主規制によって、スピード感をもつことが、正しい選択となりえる。

また、デジタル・シングルマーケットにおいて、インターネットをつかったWebの巨人たちと競争しつつ、利用者を獲得していくためには、コスト面からも国内、国際の共用のアプリ基盤をクラウドとして提供していくことが不可欠になってくると考える。

福井が考える国際展開へ向けた戦略仮説

まとめ

いづれにしても、パーソナルデータの保護と利活用については、おそらく、この1〜2年で、実質的な世界ルールがまとまってくると思う。自由放任は、これからは許されなくなっている。しかし、スマホの量的拡大が成長因子でなくなってきた最新状況において、米国のWebの巨人たちが、パーソナルデータをさらに一歩進めたサービスで質的な転換をはかってくると思う。先にはIOTも控える。欧州はどう対応するのか。最初にクローゼ女史の言葉を紹介したように、欧州の選択は、デジタル・シングルエコノミーなのである。ミドルプレーヤーの役割が増す。日本にとって、米国--欧州との連携以外にはありえない。そうした中で、ディジタル放送が導入されて15年、蓄えてきた日本の経験とノウハウを生かし、国際的な秩序つくりに参画することが重要になる。

 

Shozo Fukui

<Current position>

President , ONE ARCHWAY Corporation.

Executive Advisor for Information Task Force. Ltd.

Executive Advisor for SIGMAXYZ Inc.

Board Director and Chair of Committee in promoting for the next generation smart TV, I PTV Forum Japan. (IPTVF).

Senior Visiting Researcher, National Institute of Information and Communications Technology (NICT).

And many roles as a member of study groups in the Ministry of Internal Affairs and Communications.

<Carrers>

Born in Kamakura, Japan in 1947. graduated the Keio Univercity, Economics, then joined Tokyo Broadcasting System, Inc (TBS) , Japanese major private broadcaster, in 1969.

Started the long career in broadcast industry from a news journalist , then expanded the role to New York Bureau Chief, 1986-1991. Leading the outstanding works to build up the satellite news gathering.

Logistics with foreign broadcasters in U.S and Europe, and also launching 24 hours newscast for TBS, 1998. then, promoted to the Head of TBS Development division in transforming TBS from Analog to Digital, 1998-2003.

Executive Officer in TBS Inc, 2004-2009 and also, took a position of President for Tomo-Digi Corporation, a joint venture of TBS and Panasonic to functionate an interactive service on TV which is called as data broadcast. 2003-2011. Shozo Fukui worked 45 years in TBS group, and finally left TBS in 2014, and opened the private office as a independent consultant.