今日、ちょっと不便な場所に買い物に行く為にタクシーに乗った。
久しぶりにタクシーに乗ったのだが、どうもこのタクシーの運ちゃんと私は、気が合うらしく楽しく会話をしていた。
運ちゃん:「お客さん、前にも乗っていただいたね?」
私:「えっ?・・・そうでしたか。お世話になります。」
運ちゃん:「最近、どう?景気いい?今日みたいに暑いと大変だね?」
ちょっと仕事ついでだったので、ばっちりスーツを着ている私に同情してくれたようだ。
無理も無い。
梅雨明けを迎えた今日の東京の気温はなんと32度。
スーツを着てネクタイを締めている人などほとんど見ない。
そう、今日は土曜日だからなおさらだ。
運ちゃん:「こんなに暑くってもさあ、おれっちの財布は冷え切ってるよ。」
そう、東京のタクシーの車内での会話は、この手の景気話しが主流なのである。
大体の客が同意してくれるという事なのだろう、世間話として適当な話題なのだ。
運ちゃん:「そういえばさあ、おれっちはもう60過ぎて年金もらってんだけど、こないだ社会保険庁にさあ、行ったらよ、えらくむかついちゃってさあ・・」
きたきた、全部が全部、政府が悪いって愚痴っちゃうタイプ。
良くいるんだよね。
適当に相槌を打ちながら話を聞いていた。
運ちゃん:「そんでよ。最初に社会保険事務所行った時よ、おれっちの年金はたったの5万円しかくれねぇってんだよ。」
はいはい。
いま混乱してるしね。。。
運ちゃん:「そこのおっちゃんがよ、こう言うんだよ。
『はい、もう昼休みなんだから、オタク、なんかまだ聞きたいことアンの?早く言ってよ?』
ってね。おりゃ、もう頭きちゃって、思わずぶん殴っちゃおうかと思ったんだけど、5万円だしよ、
もう、明日からの生活の事で、頭ん中、真っ白になっちゃってよ。」
う~ん。
結構乱暴な窓口業務なんだな。
運ちゃん:「おりゃよ、一人もんだけどよ、長い間、運送会社で真面目に働いてきたんだよ。
だから絶対、5万円だなんて何かの間違いだ、もう一度調べてくれって頭下げて頼んだんだよ。」
私:「それで、どうなりました?」
運ちゃん:「そしたらよ、そのオヤジこう言いやがった・・
『何馬言ってんの!コンピュータは嘘つかないんだよ!ふざけた事言うと大変だよ!』
何度、頼んでも凄い剣幕でそうやって追い返すんだよ・・おりゃがっくりきたよ。
もうホームレスになるしかないって、家賃払えないって思ったよ。」
私:「・・・・」
運ちゃん:「そしたらさ、隣の窓口でそのやり取りを聞いてたYさんって人が、
『大変でしたね。もう一度、じっくり思い出してください。きっとお役に立てると思います』
って言うんだよ。おりゃ、また怒られんのかな?って思ったけど、その人の言う事信じて、
昔の職歴を紙に書いて整理したんだ。」
Yさん:「ゆっくり考えてみてください。この年の何月からどこかの会社で働いてませんでしたか?」
運ちゃん:「そうやって、親切にたずねられると不思議と思い出すんだよな。
そうだ、あの会社にいた。その後は、あの会社だって。」
Yさん:「ありました、ありました・・・」
運ちゃん:「そうやってさ、Yさんの質問に答えてたらさ、5万円の年金が、なんと15万円になったんだよ!
信じられる?お客さん。
あの、俺をなじったオヤジがさ、『コンピュータは嘘つかないんだよ!』って凄い声で怒鳴りやがったけどさ、嘘ついてんじゃん!、ぜんぜん嘘じゃん!コンピュータなんて俺ゃわかんねえけど、ぜんぜんだめじゃん!」
運ちゃん:「Yさんは俺にとって神様だよ。死ぬまで名前を忘れないよ。ああいう人もいるんだよ。
役人だって悪いやつばっかりじゃないんだよ。なあ、お客さん分かるだろ?」
私は、もう、こみ上げそうな感情をこらえつつ「そうですね。」の一言しか出なかった。
コンピュータは絶対ではない。
そりゃ、人が作ったものに絶対は無い。
それは分かっている。
でも、今回のような事で、どれだけの方々が年金を受け取れず、大変な思いをされたのか思うと、ICT業界で働くものとして
あまりにも情けなくなった。
本当に役に立つシステムを作ろうと、皆が頑張っているのだと思う。
しかし現実は厳しい。
思ったようなシステムを構築する事は、とても難しい仕事だ。
でも、コンピュータシステムが、人の権利や尊厳にマイナスになってしまうようなことは、断じてあってはならないと思う。



コメントする